新会長/日本建築学会・竹内徹氏、将来につながるまちづくりを

 少子高齢化や多発する自然災害、アフターコロナなどさまざまな社会課題が重なる中、関東大震災から100年という節目を迎える。建築の専門家の知識を結集し、他分野とも連携しながら目指すべき建築やまちの在り方を探っていく。デジタル化への対応を加速するとともに、市民や海外への発信にも注力し、学会の存在感を高めていく。
 --就任の抱負を。
 「コロナ禍が大きな影響を及ぼした。少子高齢化や地方の分散化・過疎化、都市部の多様化も広がっている。就任に当たって『うつくしくタフな建築・まちづくりを目指して』を掲げた。美しさには建築物やまちの美観だけではなく、伝統と文化、環境への優しさなどサステナビリティにつながる概念を込めた。タフさは災害や気候変動へのレジリエンスにつながる価値観となる。どうしたら解を得られるか、知恵を集めて指針を示したい」
 --注力する施策は。
 「人生のイベントに応じて多様な働き方や学び方ができるようなバックアップを考える。一つはデジタル化だ。出版物のデジタル配信サービスを検討する。大学でデジタル教育の教材を配信する。日本の耐震技術は進んでいるが、独自に発展していて海外からなかなか理解されない。日本の設計基準をグローバルの視点で紹介できる設計ガイドラインを作りたい。学術成果を公開するプラットフォームも構築していく。一般の人も建築に興味を持っている。会員以外に学会情報を見てもらえるようサービスを広げる」
 --建築教育の課題は。
 「BIMやAIなどが利用できるようになってくるが、高度なツールを使いこなすためにはより高い能力が必要になる。自分の手感覚とAIを比べて鍛錬する(プロ棋士の)藤井聡太さんのような人材を、育てていかなければいけない。非常に高いハードルだ。そのためのノウハウを共有化できればいいと思っている」
 --今後に向けて。
 「少子高齢化に対応したまちづくりと同時に、災害対応を考えないといけない。今年は関東大震災100年の節目だ。50年くらい先に日本のまちがどうなっているのが一番ハッピーなのか、シナリオを書かないといけない。建築単体では駄目でインフラも必要だ。土木とも協力していく」
 「最近の学生はデザインだけではなく、空き家や観光をどうしていくかなど『コトづくり』に興味を持っている。例えば木造の家を造るのであれば、設計だけではなく森林マネジメントも含めるように小さなロカールデベロップメントが新しい業務になるだろう。建築の魅力が広がっており、そうした魅力も発信していきたい」。
 (5月30日就任)
 (たけうち・とおる)1984年東京工業大学大学院社会開発工学専攻修士課程修了、2001年東工大環境理工学創造専攻博士後期課程修了。新日本製鉄(現日本製鉄)などを経て03年東工大助教授、07年准教授、09年教授。構造設計や鋼構造、空間構造、免震・制振構造が専門分野。趣味は大学時代から続けている登山。大阪府出身、63歳。

(日刊建設工業新聞様より引用)