APEC質の高いインフラ会議・中/「伊勢志摩5原則」を具体化

 ◇日本企業の施工体制に優位性
 日本が提唱する「質の高いインフラ」とは何を指すのか。昨年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)ペルー会合では、ライフサイクルコストや環境性能、安全性などを考慮した「質」を求めることとされた。
 インフラの質について、昨年の先進7カ国(G7)伊勢志摩サミットでは5項目の原則が示されている。一つ目は、「効果的なガバナンス、信頼性ある運行・運転、経済性、安全性、強靱(きょうじん)性」。インフラの全使用期間にわたる信頼性ある運行・運転の確保や、ライフサイクルコストから見た経済性、自然災害・テロ・サイバー攻撃に対する強靱性などで、いずれも日本企業が得意とする要素といえる。
 原則の二つ目は、「現地コミュニティーでの雇用創出、能力構築、技術・ノウハウ移転」。国際標準化を目指す「質の高いインフラ」は、そもそもが持続性ある経済成長を目的にしている。建設や運営、維持管理段階での現地労働者の雇用創出は経済成長の基礎といえる。インフラプロジェクトの実施は、直接的な雇用創出だけでなく、資材や機材の製造といった関連産業の発展に伴う雇用創出にもつながる可能性があり、現地経済への幅広い波及効果が期待できる。
 建設工事の場合、日本企業のように、作業員の大半を現地で賄い、本国からはマネジャークラス数人が赴く施工体制は現地経済に良いインパクトを与える。逆に作業員丸抱えで現地に乗り込むような工事方法では、受け入れ国側に雇用が生まれず、経済波及効果も限定的だ。「伊勢志摩5原則」の具体化では、日本企業のような施工体制が求められる姿になるかもしれない。
 三つ目の原則は、「社会・環境面での影響への対応」。インフラが自然環境に及ぼす影響は多々あり、インフラ整備による恩恵に預かれる一方で、貴重な自然が失われるケースも少なくない。質の高さ以前に、計画段階での環境アセスメントの実施を含め、建設、運営、維持管理の各段階で環境への配慮が必要だ。
 気候変動への強靱性や、エネルギー安全保障、持続可能性、生物多様性、災害リスクの軽減、生態系の保存など、さまざまな分野での配慮を盛り込んだ計画に基づくインフラ投資が求められる。建設資材のリサイクルのような視点も欠かせられない。投資側の論理ではなく、受け入れ国・地域のニーズに則した開発計画の実行も盛り込まれている。
 四つ目の原則に掲げられているのは、「気候変動・環境・経済・開発戦略との整合性(国家・地域レベル)」。計画・運営・維持管理のいずれの段階でも、公共部門の透明性向上と腐敗防止を確保することがうたわれた。インフラプロジェクトの正当性を、さまざまな利害関係者との対話を通じて維持することが求められている。
 原則の五つ目は「PPP(官民パートナーシップ)等を通じた効果的な資金動員」。インフラプロジェクトの持続性や適応性を確保するために、効果的な資金投入が必要だとしている。公的事業専用ファンドの構築、複数年度にわたる予算編成、TIF(税額控除の資金調達)など、日本でも未導入のスキームが想定される。
 5原則が掲げる理想は高い。

(様より引用)