APEC質の高いインフラ会議・下/根強い価格重視姿勢/格差是正・富の再配分が課題

 政府が30兆円市場への拡大を見込むインフラ輸出だが、「質の高さ」が受注に結び付くかどうかについては、不透明さが拭えない。2015年、インドネシア政府が計画していた高速鉄道プロジェクトの受注を、有利と見られながら中国にさらわれたニュースは、関係者の間に強い衝撃となって残っているようだ。
 同計画がその後、スムーズに進んでいない現状に留飲を下げる関係者もいるが、この失注は、国内建設業界にも「質の高さ」だけでは勝負が難しいという意識を残すことになった。受注に結び付かなければ、企業経営は成り立たない。
 一方で、「日本企業の施工物件は、何十年と使っても劣化・損傷が少ないと評価されている」という大手建設会社の海外事業担当者もいる。「伊勢志摩5原則」に従った質の高いインフラプロジェクトを、日本企業の受注にどう結び付けていくかが問われている。

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)は1989年に発足した。現在では、日本や東南アジア諸国連合(ASEAN)各国、米国、ロシアなど太平洋に面した21の国・地域が加盟する。経済規模で世界全体の国内総生産(GDP)の6割、世界全体の貿易量の約5割、世界人口の約4割を占める。域内の持続可能な成長と繁栄に向けて、貿易・投資の自由化、ビジネスの円滑化、人間の安全保障、経済・技術協力などの活動を行っている。
 毎年秋に行われる首脳会合はこれまで25回の歴史を重ねる。今年はベトナム・ダナンで11月10~11日に「新たなダイナミズムの創出と共通の未来の促進」を全体テーマに開かれ、▽地域経済統合の深化▽持続可能で、革新的かつ包摂的な成長の促進▽デジタル時代における零細・中小企業の競争力・イノベーションの強化▽気候変動に対応した食料安全保障と持続可能な農業の促進-などについて議論が交わされる。
 加盟各国・地域でも貧富の差は大きく、その思惑もさまざま。昨年のペルー会合では、質の高いインフラの必要性とともに、保護主義的思想の台頭や依然として解消されない加盟国間の経済格差、一向に進まない富の再配分などへの危機感が示された。
 日本をはじめ先進国・地域側が目指す「質の高いインフラ」を通じた成長の持続には途上国・地域側の理解も必要で、伊勢志摩5原則をより実効性の高いものに位置付けなければならない。

 10月17日に東京都内で開かれる「APEC 質の高いインフラ・ハイレベル会議」は、昨年の先進7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の流れを受けたAPECペルー会合で開催が決まった。30年近い歴史のあるAPECでも初めての試みであり、各国・地域のインフラ担当省庁の次官・局長クラスが参加する。ペルー会合の首脳宣言にある「均衡ある、包摂的で、持続可能で、革新的で、安全な成長」に向けた努力を再確認。東京宣言という成果文書を取りまとめ、来年開催するパプア・ニューギア会合での合意形成を目指す。
 アジア太平洋地域での取り組みだが、目指す方向は国際標準化と全世界に目が向いている。この会議が全世界の今後のインフラスペックを固める転換点になる可能性もある。

(様より引用)