20XX産業変革の潮流/三菱総合研究所/宇宙開発と建設業・5

◇フロンティア・テクノロジー本部フロンティア戦略グループグループリーダー主席研究員・内田敦
これまで4回にわたりさまざまな宇宙開発・宇宙ビジネスの形態と建設業との関わりを紹介してきた。最終回となる今回はこれまで触れられなかった、新しい宇宙開発・宇宙ビジネスの事例をいくつか紹介する。

□宇宙開発・宇宙ビジネス続出/多様なアイデアを具現化□
〈1〉宇宙旅行
2021年7月、リチャード・ブランソン氏(米ヴァージン・ギャラクティック社)、ジェフ・ベゾス氏(米ブルーオリジン社)の2人が、それぞれ自社の機体で相次いで宇宙空間に到達した。9月に行われた米スペースX社による民間人だけの宇宙旅行(Inspiration4)の実現も合わせ、宇宙旅行ビジネスは一気に現実のものとなり、21年は『宇宙旅行元年』とも呼ばれる年となった。
「宇宙旅行」の中身も多様だ。ブランソン、ベゾス両氏が体験した、(a)「弾道飛行と呼ばれる短時間無重量状態を体験するようなもの」、スペースX社のような(b)「地球を何周もするもの」、そして前澤友作氏が体験した(c)「宇宙ステーションに滞在するもの」、さらには(d)「月の周回軌道まで行くもの」、といくつかの種類がある。難易度や宇宙空間への滞在時間に応じて必要となる金額も紹介した順に高額((a)<(d))となっており、現状では、最も安価な短時間の無重量状態を体験するものでも数千万円程度とされている。
〈2〉デブリ(宇宙ごみ)除去ビジネス
これまでの連載で述べた、多くの衛星を打ち上げ・運用するコンステレーションの流行により、宇宙空間に大量の宇宙機が存在するようになってきたこと、米ロ中印各国が地球からの衛星破壊実験を行ったことで多くの破片(デブリ)が発生したことなどにより、宇宙空間の利用における安全の確保が大きな課題となってきている。
デブリ除去ビジネスは、専用の宇宙機を用いて、運用が終わった宇宙機やデブリを除去するビジネスであり、磁力を使うもの、レーザーを使うものなどいくつかの方法が提唱されている。現状では、直径10センチメートル以上のサイズのデブリだけでも2万個が宇宙空間を浮遊しているとされており、宇宙利用の持続可能性を担保する意味でも本ビジネスへの注目度が増している。
〈3〉宇宙太陽光発電
太陽光発電所となる巨大な衛星を宇宙空間に建設し、地球に電力を送る構想である。構想自体は古くからあったが、技術的な難易度、そして膨大となる打ち上げコストが課題となっていた。宇宙での太陽光発電は、当然のことながら化石燃料を使わない発電であり、究極にエコなシステムとも言えることからカーボンニュートラルの観点から、注目を集めている。

□非宇宙業界のノウハウ活用/建設業との関係さらに深まる□
このように、宇宙開発・宇宙ビジネスは、単にロケットや衛星を製造するだけでなく、次々に新しいアイデアが生み出され、多様化が進んでいる。今回紹介した事例と建設業との関係では、例えば、宇宙旅行の拠点となるスペースポートの建設・運営、宇宙太陽光発電の地球上での受電施設の建設・運営などは本業に近いところで関係があり、また、それ以外にも宇宙空間での発電所建設などでも建設業の知見が生かせる場があるかもしれない。
近年、「非宇宙企業」と呼ばれる、宇宙に関わりのなかった企業の参入も増えており、それらの新たなプレーヤーにより、今後も多様な宇宙開発・宇宙ビジネスが生み出されることが予想される。さらに宇宙開発・宇宙ビジネスの拡大には、従来の宇宙関係企業だけでは解決できない課題もあり、建設業を含む非宇宙業界のプレーヤーが保有する知見・ノウハウの活用が大いに期待されている。
本連載では、宇宙開発の最新の情報を順次紹介しつつ、その動向が建設業とどう関わりがあるのかを5回にわたり紹介してきた=表参照。折しも今月11日に日本の宇宙企業ispaceの月着陸船が米国フロリダ州より打ち上げられたが、宇宙開発はこれからも進み、人類は月や火星などへと進出していくだろう。そして、その過程においても宇宙開発と建設業との関係もさらに深まっていくことが予想される。建設業の方々にとっても、宇宙開発・宇宙ビジネスに関わることは新しいプレーヤーとの協業や新技術の活用につながり、自社にビジネスチャンスが生まれる可能性がある。遠い世界の夢物語と思わず、ぜひ検討をいただければと考える。本連載が今後の参考になっていたら幸甚である。
(うちだ・あつし)2001年の入社以来、宇宙や海洋などフロンティア分野の調査分析・コンサルティングに従事。政府の宇宙関係機関の業務や民間企業を対象とした宇宙ビジネスコンサルティングに携わる。最近は産業界主体の月面開発・利用の実現にも尽力する。

(km5002h_admin様より引用)